資産管理会社を設立して、資産管理会社にて資産を管理している富裕層は多い。なぜ、富裕層は資産管理会社を設立するのだろうか。今回は、全3回に渡って、富裕層の資産管理の舞台となることが多い「資産管理会社」について特集してみたい。

資産管理会社の注意点とプライベートバンカーの矜持「株特はずし」
(画像=PIXTA、ZUU online)

資産管理会社の注意点

第1回では資産管理会社の7つのメリットについて解説してきた。しかし、資産管理会社にも注意点がある。第2回は、資産管理会社の注意点を中心に見ていこう。

コストがかかる

資産管理会社は無料で設立できるわけではない。法人の形態が株式会社か合同会社かなどによって詳細は異なるものの、設立時は法人登記の免許税、定款に関する手数料、収入印紙代、専門家に手続きを委託する場合はその委託料などのコストがかかる。

法人を維持していく際もコストがかかる。東京都に所在する株式会社の場合、赤字であっても毎年7万円の法人住民税(法人都民税)の均等割が発生する。一般的には税理士に申告業務を依頼することから、毎月の顧問料や確定申告の代行料などもかかるだろう。

その他、社会保険に加入する場合は加入手続きおよび支払い、株主総会や取締役会の開催や議事録作成などのコストも発生する。

法人のお金を個人が勝手に使うことはできない

第1回で述べたように、法人と個人は別人格なので、資産管理会社の資金は、オーナーといえども自由に使えるわけではない。法人から個人に貸し付けることは可能だが、利息が発生することに加えて、資金が完全に移転しているわけではなく、個人には返済の義務が生じる。

法人にプールさせた資金を個人に移転する方法には給与、配当、退職金などが想定されるが、いずれも原則として税金がかかる。給与と配当は原則として総合課税扱いになり、累進課税となるため、移転金額によっては大きな税負担が発生する。上記のなかでは退職金が低税率で移転する有用な方法と言えるが、何回も使える方法ではなく、再現性には乏しい。

金融所得は個人で受け取るほうが有利

金融所得(上場株式、投資信託、債券などの有価証券から得る配当、利息、売買益など)に対する個人への課税は、通常の会社の法人税23.20%(実効税率ベースだとさらに高くなる)よりも低い20.315%だ(特定口座で源泉徴収ありの場合を想定)。したがって、単純に税率を比べると、金融所得は個人で受け取るほうが有利だ。

なお、3%以上の上場株式を保有している「大口株主」の配当所得は総合課税扱いになるので、このような大口株主は資産管理会社に株式を移転させて、法人で配当を受け取ったほうが有利であることが多い。詳細は第3回で解説する。

株式保有特定会社の認定

法人の有する資産の合計額に占める株式、出資、新株予約権付社債の合計額(以後、株式等)の割合が50%以上である会社は税法上「株式保有特定会社」と認定される。非上場株式の株価を算出する場合、(1)類似業種比準方式、(2)純資産価額方式、(3)その折衷方式のいずれかの方法により評価されることが多い。

そして、通常は「類似業種比準方式<純資産価額方式」となることが多いため、株式保有特定会社に該当すると、株価評価が高くなりやすい。すべての資産管理会社に当てはまるわけではないが、相続税負担が重くなり、それまでの税金対策が水泡に帰すリスクがあるということだ。

コントロールできる範囲とできない範囲を考える

「株式保有特定会社の認定」以外の3つは、何かウルトラC的な対策があるわけではない。コストがかかるといっても、富裕層の資産規模や収入額からすれば、想定的には少額であることが多く、資産管理会社のメリットを得るための入場料と考えれば割り切りはつくだろう。

また、「法人のお金を個人が勝手に使うことはできない」は当然のことだ。この境界線を飛び越えることができる技があれば、個人所得税と法人税の税制が根本的にゆらいでしまう。こういうものだと納得する他ないだろう。給与、配当、退職金などの移転方法を精査し、一番経済的合理性が高い方法を選択していこう。

「金融所得は個人で受け取るほうが有利」に関しても、既に決まっている税率なので対策ができるわけではない。金融所得を個人で受け取る場合は、第1回で紹介したような経費を計上できないため、こちらも他の要素も加味しながら、経済的合理性が高い方法を選択していこう。

しかし、「株式保有特定会社の認定」に関しては、オーナー側の努力で回避できる。株式保有特定会社を外すことで、純資産価額方式で株価算出されないようになり、相続税負担が軽くなるというわけだ。プライベートバンクや富裕層の資産管理の世界では、この対策を俗に「株特はずし」と呼んでいる。

「株特はずし」の具体的な2つの方法

ここからは、「株特はずし」にはどのような方法があるか解説していこう。「いかに上手に株特はずしをするかが、富裕層を顧客とするプライベートバンカーや税理士の矜持」(あるプライベートバンカー)とのことなので、詳細は専門家に相談してみると良いだろう。

保有株式を売却する

株式保有特定会社の認定条件は、総資産に対する株式等の割合が50%以上なので、株式保有割合が50%を下回る水準まで株式等を売却すれば、株式保有特定会社は外れる。

しかし、この方法は実行できないことが多い。株式保有特定会社と認定される人の多くが、自社株を資産管理会社で保有しているオーナー経営者であり、企業統治の観点から、簡単に自社株を売却できないためだ。流動性の問題もある。

株式等以外の資産を購入し、相対的に株式等の保有割合を下げる

したがって株特はずしでは、株式等以外の資産を購入し、相対的に株式等の保有割合を下げる方法が取られることが多い。「株式等以外の資産」にはどのようなものが挙げられるのだろうか。簡単に解説していこう。

1.不動産
株特はずしでよく活用されるのが不動産だ。不動産が活用される理由として「借入がしやすいこと」が挙げられる。資産管理会社で保有している株式等の金額が大きい場合、新たに購入する資産の金額も必然的に大きくなる。不動産であれば不動産賃貸業として借入がしやすいので、株特はずしの際によく活用されるというわけだ。

2.オペレーティング・リース
不動産と同様に、オペレーティング・リースも借入がしやすいので、株特はずしの際によく活用される。特に株式等の金額が大きくなりやすい上場会社オーナーの株特はずしの場合は、ロットを大きくしやすいオペレーティング・リースが積極的に活用される。

3.投資信託や債券
投資信託や債券といった一般的な金融商品も株式等に該当しないので、株特はずしをする際の選択肢のひとつになる。ただし、不動産やオペレーティング・リースに比べて借入がしにくいことには注意が必要だ。

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